「そんな人、会ったこともありません」——そう言い切ってしまった数ヶ月後に、まさかの答弁修正。実はこれ、他人事だと笑って済ませられる話じゃない。小さな噓や、ちょっとした誤魔化しが、後になって自分でも収拾がつかない大きさまで膨らんでいく瞬間。あなたにも、身に覚えがあるんじゃないだろうか。
今、永田町で起きているのは、まさにそれの国家規模版だ。舞台は発足からまだ1年も経っていない高市内閣。主役は「SANAE TOKEN」、通称サナエトークンという一つの暗号資産と、「中傷動画」という一本の動画。この二つが国会の集中審議で絡み合い、内閣支持率の下落と、地方選挙4連敗という崖っぷちまで、政権を追い詰めている。
正直、政治にそこまで興味がなかった人でも、この話は多分刺さる。なぜなら、これは政策論争でも思想対立でもなく、”言い訳がバレていく瞬間”を延々と見せられる物語だからだ。しかも主人公は、一国のトップ。逃げ場は、どこにもない。
念のため先に言っておくと、この記事は「絶対にクロだ」と決めつけるものじゃない。首相本人は一貫して関与を否定しているし、事実関係の全容もまだ確定していない。それでも、答弁がじわじわ変化していく様子や、地方選での連敗という”数字”は、すでに公になっている事実だ。そこだけを、順番に追ってみようと思う。
“中傷動画作成に関わった”男性「サナエトークンの開発の責任者は私」と発言 高市首相は関与を否定https://t.co/cir1Uu6BKR
— 日テレNEWS NNN (@news24ntv) May 19, 2026
消えた「面識がない」の噓
話はそもそも、今年3月に遡る。高市首相の名前を無断で冠した暗号資産「SANAE TOKEN」がネット上に出回り、価格は初値の約30倍まで急騰した。首相は自身のXで関係を全面否定。その投稿の直後、価格は一気に暴落した。
ここまでなら、よくある”著名人の名前を悪用したなりすまし詐欺”の一件として、静かに幕を閉じていたはずだった。
ところが6月、IT企業を経営する男性が週刊誌の取材に実名で応じ、「トークン発行の実質的な責任者は自分であり、首相の公設第一秘書と何度もやり取りをしていた」と証言する。さらにこの男性は、自民党総裁選や今年2月の衆院選で、対立候補や野党を中傷する動画の作成を、その秘書から依頼されたとも主張した。制作した動画は1500本にのぼるという証言まで出ている。
国会で追及された首相は当初、「秘書とその男性は面識がない」と断言していた。ところが、二人が同席したとされるオンライン会議の音声データが週刊文春から公開されると、答弁は少しずつ変わっていく。「秘書に確認したところ、参加者全員を覚えているわけではないため、可能性は否定しない」——”会ったことがない”が、いつのまにか”はっきりした記憶がないだけ”にすり替わっていた。
もちろん、首相側の言い分も紹介しておく必要がある。国会審議で首相は、自分はこれまで対立候補を中傷することなく、ひたすら政策を訴えてきたと繰り返し強調し、中傷動画の作成を第三者に依頼するようなことは自分の流儀ではないと否定している。事務所や陣営もその方針を十分理解して活動しており、外部に依頼する発想自体がないという説明だ。事実関係がどちらに転ぶにせよ、この”言った言わない”の応酬こそが、今の国会を膠着させている。
JNNの世論調査では、この一連の対応について51%が「納得できない」と回答している。この言い換え、あなたも一度くらい、心当たりがあるんじゃないだろうか。「知らない」と言い切ってしまってから、証拠が出てきて、じわじわと後退していくあの気まずさ。国のトップがそれをテレビカメラの前でやっている、というだけの話だ。
SANAE TOKENという仮想通貨が発行され、一定の取引が行われていると伺いました。名前のせいか、色々な誤解があるようですが、このトークンについては、私は全く存じ上げませんし、私の事務所側も、当該トークンがどのようなものなのかについて知らされておりません。本件について我々が何らかの承認を与えさせて頂いたこともございません。
— 高市早苗 (@takaichi_sanae) March 2, 2026
「サナエトークン」が仕掛けた罠
中傷動画のインパクトに気を取られがちだが、実はサナエトークンの方こそ、法律に触れかねない問題を抱えている。金融庁は、資金決済法違反、つまり無登録での暗号資産関連営業の疑いがあるとして、6月18日までに複数件の被害相談が寄せられていることを明らかにした。
価格が初値の30倍まで吊り上がった裏側には、実際にお金を出して買ってしまった国民がいる。有名人の名前を冠して期待感を煽り、短期間で価格を吊り上げ、当の本人が否定した瞬間に紙くずへと変える——この構造、どこかで見た覚えがないだろうか。SNSでよく見かける「著名人が推薦する必勝案件」や「限定招待制の投資話」と、骨格が驚くほど同じだ。
考えてみれば、私たちの身の回りにも似たような話は転がっている。友人から勧められた副業案件、グループチャットで盛り上がる投資話、”今だけ””あなただけ”という煽り文句。冷静なときなら見抜ける罠でも、期待感が先に立つと判断力は鈍る。今回のサナエトークンが特殊なのは、その煽りの材料に、一国の首相の名前という、本来なら最も信頼されるべき看板が使われてしまったという一点に尽きる。
政治家の名前がついていようが、志の高いプロジェクトを謳っていようが、”値上がりの理由が本人の意思とは無関係”だと分かった時点で、本来は危険信号が点灯していたはずだった。首相本人がこの危うさにどこまで気づいていたのかは、現時点の材料だけでは断定できない。首相自身も度重なる国会審議で関与を否定し続けている。
ただ一つ、動かない事実がある。首相の後援会が運営する公認Xアカウント「チームサナエが日本を変える」が、このプロジェクトを一時期宣伝していたことだ。後に投稿は削除されたが、名前を貸した側の責任として、この事実は消えない。暗号資産の被害というのは、いつも「まさか自分が」と思っていた人のところにやってくる。今回、その”まさか”を体現してしまったのが、国のトップの周辺だったというだけの話だ。
秘書は”身代わり”にされたのか
野党が今、最も強く求めているのはただ一つ。渦中の秘書本人を国会の場に呼び、参考人として直接答弁させることだ。ところが首相はこれを拒み続けている。「秘書本人がしっかりとした陳述書を作成し、証拠となる書類とともに理事会に提出する。それをもって答弁に代えたい」という方針を崩していない。
これに対し野党側は「答弁拒否だ」「国会で追及されたら、いや私は答えません、陳述書出しますからそれ見てください、そんな馬鹿な話は聞いたことがない」と猛反発。参考人招致を改めて要求している。
ここで一度立ち止まって考えたいのは、”書面一枚で済ませる”という判断が持つ意味だ。会社で何かトラブルが起きたとき、当事者を会議室に呼ばず、始末書だけで片付けようとする上司を見たことはないだろうか。周りは納得できないまま、モヤモヤだけが残る。本人の口から、本人の言葉で、直接聞きたいのに、それが叶わない。今回の国会審議も、規模は違えど同じ構図に見えて仕方がない。
首相は秘書を守ろうとしているのか、それとも秘書に責任を背負わせて自分はあくまで関与を否定し続けているだけなのか。陳述書という”紙”の向こう側にいる、生身の人間の声を、国民はまだ一度も直接聞けていない。国会の会期末は7月17日に迫っており、皇室典範改正案などの重要法案審議と絡めて会期延長論も浮上しているが、疑惑追及が長引くほど、政権の体力が削られていく展開も十分に考えられる。
支持率より雄弁な、地方選4連敗
永田町の外に目を向けると、もっと分かりやすい”答え合わせ”がある。今年に入ってから、自民党が推薦・支援する候補が立った地方の首長選挙は、軒並み敗北しているのだ。
3月の石川県知事選では、高市首相自らが応援に駆けつけ、自民党として全面支援したにもかかわらず、全国的にも知名度の高い現職候補が落選した。3月の清瀬市長選、4月の練馬区長選でも、自民系の推薦候補が敗れている。そして6月28日投開票の東京・杉並区長選。無所属の現職・岸本聡子氏が10万6487票、得票率52.74%という圧勝で再選を果たした。自民推薦の新人候補の得票は、その半分にも届いていない。
この選挙は、2月の衆院選で自民党が都内の全選挙区を制した”高市旋風”の再来を占う「国政の代理戦争」とまで位置づけられていた。しかしふたを開けてみれば、ダブルスコア以上の完敗だった。
一方で世論調査に目を向けると、内閣支持率は調査主体によって50%台から60%台後半までばらつきがある。ある調査では内閣支持率65.9%(前月比マイナス4.1ポイント)、別の調査分析では支持率が発足後初めて50%を割り込み49.1%になったとも報じられた。自民党の政党支持率も27.2%(マイナス2.1ポイント)まで下落し、5週連続で20%台にとどまっている。支持政党なし層は21.2%まで増加した。
数字の上ではまだ一定の支持を保っているという強弁と、実際の投票箱では負け続けているという現実。このズレこそが、今の高市内閣が抱える最大の弱点だと私は思う。世論調査の電話には答えなくても、投票所には足を運ぶ。それが国民の、静かだけれど一番重たい意思表示だ。
衆参ともに与党が数の上で圧倒的な議席を持つ内閣であるにもかかわらず、例年に比べて法案成立のペースが鈍いという指摘も出ている。疑惑の追及に国会審議の時間が割かれ、本来進めるはずの政策論議が後回しになる。国民が本当に見たいのは、言い訳の応酬ではなく、生活に関わる政策がどう前に進むかのはずだ。
まとめ:私が刺さったところ
・金融庁も動くサナエトークン問題と、後援会アカウントが一時宣伝していたという消えない事実
・支持率の数字とは裏腹に、自民推薦候補が地方選で4連敗している現実
今回私が一番刺さったのは、政策の是非そのものより、”説明責任からの逃げ方”のパターンだった。「面識がない」から「否定しない」への言い換え。書面一枚で済ませようとする姿勢。名前を貸したことへの曖昧な向き合い方。どれも、私たちが日常のどこかでやってしまった経験がある、”小さな誤魔化し”の延長線上にあるように見えて仕方がない。違うのは、それが一国のトップという規模で起きている、ということだけだ。
サナエトークンも中傷動画も、まだすべての事実関係が確定したわけではない。首相本人は一貫して関与を否定しており、疑惑はあくまで疑惑の段階にとどまっている。だからこそ私は、この先の国会で、どこまで本人の言葉で説明が尽くされるのかを、注目していきたいと思っている。
あなたはこの一連の流れを見て、どう感じただろうか。もし、身に覚えのある”あの気まずさ”を思い出したなら、それこそが、このニュースが単なる政治の話だけでは終わらない理由なんじゃないかと、私は思う。

